Anthropic、AIコード急増でGitから独自VCS「Scion」へ移行
Claudeが大量のコードを生成する中で分散型Gitの限界が露呈し、Anthropicはサーバー中心の独自VCS「Scion」を5か月で構築してモノレポを完全に移行した。
Anthropicは10月、技術ブログで独自開発のバージョン管理システム(VCS)「Scion」と専用のコードレビュー基盤「Antique」を発表した。社内で運用していた巨大なモノレポ(複数プロジェクトのコードを単一リポジトリで管理する方式)をGitからScionへ移行するのにかかった期間はわずか5か月だった。
なぜGitは限界を迎えたのか
背景には、AIエージェント(ユーザーの代わりに複数の手順を自分で進めるAI)によるコード生成の爆発的な増加がある。2026年5月に1日平均約2,500件だったマージ数は、9月には1日3万件超へと跳ね上がった。わずか4か月で12倍に急増した計算だ。
リポジトリの規模も人間の作業前提を逸脱した。メインブランチの履歴だけで100GB近くに達し、圧縮した作業コピーも25GBを超えた。さらにCI(継続的インテグレーション)だけで、コードのチェックアウトは1日約2,500万回に及び、開発環境やエージェントのサンドボックス、研究ジョブは別だった。これをGitの標準手順で取得すると、1日だけで600PB以上のトラフィックが発生する規模だ。
Anthropicは数百台の社内Gitミラーやリポジトリのスナップショット(シード)で対処してきたが、マージ頻度が急激に上がるとミラーが最新コミットに追従できなくなったり、メモリ枯渇による障害が相次いだ。
ScionはGitと何が異なり、どう解決したのか
Gitは各クライアントが履歴全体をローカルに複製し、オフラインでも作業できるよう作られた分散型システムだ。しかしAnthropicの環境でコードを読み書きする主体のほとんどは、常時ネットワークに接続されたAIエージェントと自動化ジョブだった。
Scionはこの前提に着目し、常時オンラインを前提としたサーバー中心の設計に切り替えた。GoogleのPiperやMetaのSapling着想を取り入れ、クライアントはリポジトリ全体を複製せず、必要なディレクトリーツリーとファイル内容(BLOB)だけをAPI経由で取得する。
コミットは差分(changeset)のみをSpannerデータベースに記録する。コード行の最終変更者を調べるblameやファイル履歴などのメタデータは、必要に応じて都度計算する「派生データ(derived data)」として分離した。各サーバーノードに置かれたデーモンと地域キャッシュがオブジェクトをメモリから直接ストリーミングし、キャッシュヒット率は99%を超える。
この結果、従来のGitミラー構成に比べてインフラのCPU・メモリ使用量は200分の1に激減した。数分を要していたチェックアウトは数秒へと短縮され、CI全体のCPU負荷も25%削減された。
7名が5か月で移行できた理由と制約
このシステムを開発して移行を完遂したのは、わずか7名のエンジニアチームだった。迅速な開発の裏には、Claude自体の支援があった。たとえばエンジニアが手作業で書いたGit取り込みパイプラインの試作品をClaudeの初期モデルが全面的に書き直したところ、データ整合性を保ちながらメモリ消費は20分の1になり、処理速度は4倍に向上した。
ただし、Scionは一般的なGitの代替製品ではない。Scionはオープンソースではなく、オフライン作業にも対応していない。また社内特有の巨大モノレポ、専用レビュー基盤「Antique」、独自のCI環境に強く依存している。
今後注目すべき点
Anthropicは、多数のAIエージェントが絶え間なくコードをコミットする環境は、今後6〜12か月のうちに他社でも現実化すると予測している。Gitを即座に捨てるのではなくとも、リモートサーバー側に強力なキャッシュ層を設ける構成や、APIベースのスパースチェックアウトの強化など、分散型VCSの制約を克服する試みが開発ツール市場全体で進む見通しだ。
出典
- Redesigning source control at Anthropic (Anthropic Research)